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中欧・東欧旅行記-2006-

prologue

成田空港のカウンターで、私は途方にくれていた。空港で受け渡しのはずだったチケット類一式が届いていないとたった今言い渡されたのだ。

3週間の休暇がスタートした矢先、いきなりのピンチにもう呆然とする他ない。
「ええっと、それってよくあることなんですか?」
「え?まあ、稀には・・・」
我ながらなんとトンチンカンな質問をしているのか。成田空港でチケットがロストする頻度を聞いたところで、状況が良くなるわけでもなんでもないのに。それでも問わずにいられないほど頭がパニックを起こしていた。

こんなことってあるんだろうか?旅にトラブルはつきものだが、まだ出国すらしていない。行ってきますと飛び出した家に、苦笑いで帰宅するのか?いや、それだけは勘弁してくれ。いつもの事だが、反対を押し切って飛行機のチケットを取ったのだ。ここまできて引き下がるなんて絶対出来ない。行くと決めたからには絶対行きたい。

「とにかく探してください
カウンターのおばさんにそれだけ告げてその場を発った。頭を冷やさなければ。そして次の一手を考えなければならない。自分はこんな時、とっさに正しい判断ができる類の人間ではない。だからこそ、こういう時はとにかく自分を落ちつけることが最優先事項だ。大丈夫。まだ時間はある。そう言いきかせて溜息をついた。あぁなんてこったい。

今年はヨーロッパ。そう決めていた。昨年、ケニアとペルーでディープな旅を経験し、お金よりも体力と気力のほうが尽きていた。トラブルとは無縁の楽ちんで安全で綺麗な旅がしたい。結果、私が取ったのはウィーン往復の格安航空券だった。ドナウ川を見て、ルーマニアの村でのんびり。時間があったらチェコまで行ってモルダウと中世の街並みを満喫する。そして本場ウィーンのザッハ−トルテを食べたら、もう何もかもが満足だ。もうひとつ、この旅には大きな目的があったのだがそれはさておき、ウィーンin/outチケットを選んだ理由の100%が『トラブルが少なそうだから』に集約されるのである。

で、のっけからこのトラブルだ。何かが間違っていたんだ。1円でも安いチケットを取ろうと張り切った事か、それとも夏休みを最大限に使おうと欲張った事か。そもそも、トラブルに遭わずに旅をしようなんて心意気こそが完全に間違っていたのかもしれない。やはり保険に入っておこう。この旅はきっと今まで以上にディープだ。

保険の証書を確認し、落ち着いたところで再アタック。こっちはお金を払っているわけだからもうなんとしてでも旅立つが、そのためならある程度トラブったとしても仕方ない。カウンターのおばちゃんと喧嘩する気で望まねば。頭を臨戦態勢に切り替え、カウンターに立った。

と・・・
「申し訳ありません。チケットありましたー!」
「え?あ、はい。あ、どこにあったんですかー?」

状況の変化にやっぱり頭がついていかず、結局またトンチンカンなことを聞いてしまった。こちらに保管されておりましたよ、と丁寧な笑顔で対応してくださるカウンターのおばちゃん。こんな天使のような優しいおばちゃんに私は喧嘩を吹っかけようとしていたなんて、あぁ少し胸が痛い。

トラブルが解決し、安心した私は出国審査を終え、チケットに記された所定のゲートの前のソファに座り込んだ。そして考える。こんなもんだ。旅のトラブルなんて所詮はこんなもの。たいしたことない。そしてさっきから、どうも腑に落ちないことがある。ゲート前のアナウンス、到着地がどう聞いても「アブダビ」だ。表示もなんか「阿布達・・・」だ。そう、私の旅なんて所詮こんなもんなんだ。あぁ、私は本当にウィーンに行けるのか。ディープだ。この旅は。

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