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中欧・東欧旅行記-2006-

いつか帰りたいと思う場所

荷造りを済まして9時45分、Oncestiを出発。ババマリア、マママリア、アナマリア、お隣のマリア、みんな集まって見送ってくれた。マティはお土産だよと大きなペットボトルに入ったツィカをプレゼントしてくれた。だからこれエタノールじゃんて!!でもありがたくいただく。いいお土産ができた。

「ラ・レヴェデーレ!」とみんなに手を振りながら、ああきっとまたここに戻ってくるんだろうなーと思っている自分がいる。旅をしていていいなと思うことのひとつは、自分の記憶の中に、帰りたいと思える場所が増えていくことだ。お気に入りの場所を世界中に見つけることができる。アテネのパルテノンを見下ろす丘のベンチとか、ローテンブルクの夕焼けの公園とか、サバンナが見渡せる木の上のカフェとか、マチュピチュと正面から向かい合えるインカ道の大岩の上とか。マラムレシュの緑をたっぷり浴びられるマティ家のテラスのソファとかだ。

次の町に向かう道すがら、乗り換えの小さな駅でたくさんのロマのお母さんたちを見かけた。子供を抱いて物乞いをする、そんな彼女らの眼がどうしてか印象に残ってしまって頭から離れなくなった。故郷も家もなくても、これも一つの民族の形なのだ。

お日様がぎらぎら照りつけて、大荷物を引っ張っての乗り換えが辛い。すると、人の良さげなおじさんが荷物を運んでくれた。親切なおじさんで、プラハまで行くといったら、込み合うローカル線のコンパートメントで私の座る場所まで確保してくれる。
「自分はこのすぐ先で降りるから、気にしないで座ってなさい」

私はお礼を言って座らせてもらうことにした。どこまでも続くトウモロコシ畑に見惚れていると、
「いいところだろ?」おじさんが誇らしげにつぶやいた。
「いいところですね」それに同意する。

ここで生きていく人たちの中に、今、自分がいて、何かを共有しているという感覚。ローカル線の旅は不思議だ。でもそれが居心地いい。川を超えると向こうに小さな集落が見えた。
「この村が私の故郷なんだ」そう言って彼は手を振った。

その時、私の中にうまく表現できないけれど、ある種の違和感がうまれた。私の目的地はここじゃないから、私はまだ列車に揺られていく。当然のことなのだけれど、なんだろう、何かが心にひっかかる。ここはいいところだ。でも、私の故郷じゃない。彼女たちのあの眼が頭をよぎる。まるで自分がロマの子になったような気分だった。騒がしくも楽しいオンチェシュティの人々と別れて、思い出の詰まったルーマニアを抜けようとしていることに対して生まれた不思議な感覚。多分、確信はないけれど多分、「淋しい」という言葉が一番ぴったりなんじゃないかと思った。とはいってもコレが旅人の性。私もだんだん旅人らしくなってきたなと思う。

ロマとして流離う彼女たちは人とのつながりが恋しくなることはないのだろうか。彼女たちも、いつか帰りたいと思える場所を持っているのだろうか。ルーマニアを抜ける路線の上で、夕暮れの景色を見ながら、ふっとそんなことを考えた。

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