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中欧・東欧旅行記-2006-

似非モーツアルトとウィーンの音楽

ウィーンの街の片隅で、モーツアルトのコスチュームを身に纏った、明らかに怪しいおじさんから声をかけられた。
「チケット、ガクセイ、21ユーロ」
その身なりに一瞬度肝を抜かれたが、ただのクラシックコンサートのチケット販売員だった。

ウィーンには大きな歌劇場がある。せっかくだから本物のオペラを聞いてみたいなと思ったのだが、残念ながら今は季節を外しているらしく有名なオペラ座も今はお休みしていた。だが、通りを歩けばクラシックコンサートのチケットは簡単に手に入る。似非モーツアルトおじさんは彼独りだけではないのだ。むしろ彼らはウィーンの名物みたいになっているとさえ思う。池袋西口付近で客引きをする黒スーツのキャバクラ勧誘を思い出し、こっちのほうが健全だなと思った。だが、モーツアルトに扮してチケットを売り歩くというのは、きっと相当恥ずかしい仕事なんだろう。だって何も知らない海外旅行者の目から見ると、こんなにも怪しい姿なのだから。

オペラ座に行きそびれたことの埋め合わせくらいにはなるかと思い、街角で売られていたミニコンサートのチケットを買った。さすがにモーツアルトもどきから買うのはためらわれて、スーツのお姉さんとチケットの交渉をした。学生料金で19ユーロ。この値段で立ち見じゃないっていうのはありがたい。

 

夕方、ベートーベン広場をぬけて、コンサート会場へ入る。小さな箱で、椅子はパイプ椅子。公民館でやる市民音楽発表会か。実際、オーケストラあり、オペラあり、それにワルツもバレエもくっつけて、美味しいとこ取りのコンサートだ、なんていう売り文句だったから、さほど期待はしていなかったのだが…。どっこい、生は違った。

音楽が始まると同時に、まるで公民館のようだった会場の空気が変わる。ここはどこぞの音楽ホールかってくらいに変わる。ここが本場ウィーンだってことを忘れていた。まずバイオリンがすごい。迫力だ。19ユーロって嘘だろうと言いたくなる迫力の演奏。特にトルコ行進曲からバレエの美しき青きドナウにかけてのくだりなんか、拍手しすぎて手が割れるかと思った。

バレエを踊る女性のしなやかな感情表現もすごく印象的で、少なくとも私が日本で見たことのあるようなバレエの発表会なんかよりずっと心に響くものがあったと思う。オペラを歌う男性歌手の伸びのある歌声にも鳥肌が立った。こんなコンサートをこんな近くでしかも生で見られるなんて、ウィーンと云う街は贅沢だ。

22時、会場を後にしても興奮冷めやらない。私がただ感動しやすい性格なだけかもしれないが、今日は特にいい経験をした。やはり何事もまず本場の味を知るのが一番だ。ケーキにしてもクラシックにしても。

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