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中欧・東欧旅行記-2006-

ブラショフでドラキュランデブー・後編

彼はDanと名乗った。ブラン城の下のお土産通りで歯ブラシを売る商人なのだという。
「私も世界中を旅しているんです。南米には行ったのですか?ボリビアは?とても綺麗ですよ」
お互い旅の話になると盛り上がってしまう性分のようで、街までがあっという間だった。

「折角だから貴女の電車の時間までブラショフを案内しましょうか?私はこの近くの村の出身だから詳しいですよ」
右も左も分からない旅人に、ブラショフは優しい。旅の話も聞きたいし、ここはお言葉に甘えてブラショフの街巡りを彼に任せることに決めた。

白い塔や大広場、そして糸のように細い小道まで、Danに連れられブラショフの街を歩く。長い階段を上ると、街全体が見渡せるヴューポイント。『黒の教会』というのが有名らしい。ここからよく見える。夕暮れの街はにぎやかだった。茶色く統一された街並みは中世にタイムスリップさせてくれる。Danは歩きながら賛美歌を口ずさむ。「上手!」と褒めると、歌が好きなんです、と笑った。

街の外れは治安が良くないからと言いつつも、城壁外へも案内してくれた。トルコとの戦いで破壊された壁面にそって歩きながら目を細め、
「昔はここからずっとあの辺り、見えますか?あそこまでぐるっと城壁が延びていたんです。でも14世紀に大きな戦争があって、全部壊されてしまったんですよ」

まるで見てきたようですね、とは言えなかったけれど古都の歴史をそれとなく教えてくれるDanの話に耳を傾けながら心の中で首をかしげる。

・・・自分もよく旅に出る人間だから、旅でもらった親切を誰かに返したいって気持ちは良く分かるけど。しっかし見ず知らずの人間にこんなに甘えていいものか?何も考えずにホイホイついて来て、よくある旅の落とし穴、「お金を請求される」とか、「体を請求される」とか、そういうことをどうして最初に考えなかったんだ私は!この状況、実はもう奴の手のひらの上なのかも・・・。もうそろそろ電車の時間だからと告げて様子を見ようか。きっとガイド料を請求してくるはず・・・

「あの、私、電車に間に合わないと困るからここで・・・」
「この街でもう少しゆっくりしていけばいいじゃないですか。いい街ですよ」
「いやいや、切符がね、今夜のクシェットなので」
「そうなんですか。じゃあ駅まで送りますよ」

・・・えぇ??意外とあっさり?いや、まだ油断するな。最後にきっとガイド料100Leiね、とかいうオチでしょう??・・・

そんなこんなで駅までのバスを待つ。「バス代くらい私、払えますから」と言っても、「かまいませんよ、これくらい。駅までなんてすぐですから」と譲らない。優しくされればされるほど、最後にいったいどれだけふっかけられるかが不安になってくる。

・・・旅で優しい人間は疑うのが正解だ!私が間違ってたんだ。怖いよー!!・・・

疑って疑って疑って、そして・・・、電車のコンパートメントに荷物を上げてくれたDanは・・・
「私も楽しかったですよ。さようなら。毎晩、君のことを祈りますから」
そう言って、首元にひとつキスをした。

・・・へ???あ、そんだけ???・・・

最初から最後までめちゃめちゃいい人、それがDanだった。こんないい人を疑って、ありがとうもろくに伝えずに帰ろうとしていたなんて、なんて最低な旅人。というか、大バカ者だ。コンパートメントの窓を全開に開いても、混みあう異国のホームに背の高いその人の姿は見つからない。「Daaaa----n!!」大声で叫んでみても、それでもやっぱり見つからない。

旅にまつわるいろいろなエピソードを聞いたり読んだりしていると、時々人間はなんて汚い生き物かと嘆きたくなる時がある。しかし本来、人は優しい生き物だ。私も優しくあろう。そう決めた出会いだった。ありがとうDan。またいつか会いにくるよ。

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