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中欧・東欧旅行記-2006-

美しき青きドナウの衝撃・後編

 ブダペストの東駅に降り立ち、街中にある民宿のような小さな安宿の片隅にバッグパックをおろして、早速街歩きに出た。宿からはシナゴーグが近い。お土産を選ぶならヴァーツィ通りだ。なんだかんだ回り道しながらも、足は自然とドナウに向かう。先ほどの衝撃でドナウに対しての期待は消え去ったものの、それでもこの街のシンボルだ。川べりで夕方の街の彩りを待つのも悪くないだろう。

街の中心を流れる大河は、変わらず淀み濁ったものではあるけれど、電車から見たような貧相な情けなさは感じられなかった。ここでは王宮とくさり橋を従えて、立派にハンガリーの顔をアピールしている。夕映えに輝く水面の歴史に思いを馳せつつ、ああなんとか無事にここまで来たな、なんて目を細めてみたり。とその時、腹時計が時差ぼけを吹き飛ばして、夕食の時を告げた。思案も哀愁も何もかも、空腹の前には無意味。今朝方ウィーン駅で軽い軽食を取った以外は何も飲まず食わずでハンガリーまで渡ってきたのだ。そりゃあ腹も減るだろう。

着いた早々に散財するのもいかがなものかとは思ったのだが、やはり「食」は旅の一番の醍醐味。ここまで無事にたどり着いたご褒美に、今夜のディナーはリッチなドナウ船上レストランと洒落込んでみた。王宮とくさり橋が見える絶好のポジションを探しながらいくつかの船を渡り歩いて、混み合う船内になんとか席を得た。まず頼んだのはハンガリーの地酒『パーリンカ』。飛行機も落ちずに無事に旅がはじめられた記念に乾杯。ブランデーみたいな蒸留酒を飲み干すと、のどが焼けて薬草の匂いがした。おばあちゃんの養命酒って、飲んだことはないけれど、きっとこんなんだろう。なんだか全てに効果がありそうな味だった。お子様の味覚しか持ち合わせていない私にはこれがうまいのかどうかは判断しかねるが、強いアルコールはテンションを上げてくれるから好きだ。

何を食べようかさんざん迷った結果、グヤーシュをチョイス。ハンガリー名物の煮込み料理で、ニンジン、ジャガイモ、牛肉が入ったまるでビーフシチューのようなスープ。大きな違いがあるとすれば、これはブイヨンベースではなくハンガリー人の誇りパプリカで作られたスープだという事か。私の感覚からすれば、パプリカなんて所詮は色つきピーマンだ。それで作っているスープなんて、実際いかがなものだろうかと思っていたが、でもなかなかこの味、ヒットだった。しっかり煮込まれた牛肉が柔らかくて、ちょっとスパイシーなスープがベストマッチ。その後試したサクランボのどぎついピンクスープに比べて、ずっと繊細な味だった。

と、うっかり食に夢中になって景観を忘れていた自分を発見。いつの間にか王宮がライトアップされてすごく綺麗だった。くさり橋もその向こうに見えるマーチャーシュ教会も、美しいオレンジに着飾って存在感を際立たせる。空が真っ暗になる前の、うっすらと明るさの残る色の空、それが目の前を流れる川に映って・・・・・、え?!

そこにあるドナウが、青かった。ダークブルーの空を映して、ライトアップされた街並みに照らされて、ドナウが美しく青く輝いて見えるではないか。なんと!美しき青きドナウは実在したのだ。陽が落ちてから闇に星が出るまでの僅かな時間の美。これが美しく青きドナウの真の姿だったのか!!どうやらまた私はシュトラウスに一枚食わされたらしい。なんてこった!やっぱりこの旅、なかなか刺激的だ。

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