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ケニア旅行記-2005-

クロサイはまだここにいる

頭上で鳴り響く警戒音に飛び起きる。あまりにビックリして、冗談じゃなく心臓が飛び出すかと思った。

由緒正しきお化け屋敷風ロッジ昨日からアバーディア国立公園で動物観察をしている。ここではロッジに居ながらにして動物観察ができる。ロッジの脇に水場があり、野生動物たちが水と塩を求めてひっきりなしにここを訪れるのだ。エリザベス女王が即位した由緒正しいロッジに行くと聞いて大喜びしたのも束の間、着いた先はどう見てもお化け屋敷で、迎えてくれたのはヌーとイボイノシシだった。まあこの際ロッジの外見は問題ではなかろうと思いこんで、昨日からひたすら動物観察に勤しんでいる。

まつげの長さを実感するこの距離感でゾウを観察できる実際、車で移動しなくて良い分楽ちんだし、水をめぐる動物たちの動向もなかなか面白い。ゾウの群れがヌーたちを追い払って水場を占領したかと思うと、あっちではウォーターバックがメスを争って喧嘩を始める。座っているだけで見所満載、何だかお得なロッジである。

アバーディア国立公園は標高が高く、かなり寒い。アンボセリの大平原とはうって変わって山景色。普段はケニア山が美しく見えるらしいが、山頂付近は昨日からずっと雲に隠れていた。

ウォーターバック夜、水場に珍しい動物がやって来ると、各部屋のブザーが鳴り、宿泊客を叩き起こしてくれる。これがこのロッジの特色の一つだが、今しがた、そのブザー音に殺されかけた。昨夜は仲良くなったスペイン人と遅くまでワインをがぶ飲みして、倒れるように寝入った直後だっただけに、本気で心臓発作を起こしかけた。

まだ落ち着かない心臓をなだめつつ、ブザーの回数を確認する。寝入っていたため記憶は定かではないがおそらく3回、これは確か・・・、絶滅危惧種ⅠAのクロサイだ!これを見逃す手はない。時間は真夜中1時半。カメラを片手に部屋を飛び出す。

ブッシュバックテラスにはもう人だかりができていたが、私を心臓発作にしかけたクロサイは見当たらなかった。もう逃げてしまったのかもしれない。泣く泣く部屋に引き返し、ベッドに入ってすぐ、またブザーが鳴った。3回!今度こそ!!

ついに出会えた!しかも2匹だ。水辺で水を飲んでいる。親子だろうか。一匹はどっしりした体つきで大きな角が見える。もう一匹は少し小さい。夫婦かもしれない。堂々とした佇まいに息をのんでしまう。こいつらがもうすぐ地球上から姿を消してしまうなんて信じがたい。

寄りそうクロサイクロサイを絶滅に追い込んでしまったのが私たち人間だとすれば、その貴重な姿に感動して今、ちょっと切なくなってみたりしているのも人間。ああ、私は実に勝手な生き物だ。でも、考えてみれば人間だってあとどのくらい生き延びられるかは分からないじゃないか?戦争、自然破壊、資源の枯渇・・・・本当の意味で後がないのは人間の方なのかもしれない。自分に後がないってことに気付かされるのはいっつも土壇場になってからだ。病気になって初めて、自分もいつかは死ぬという絶対的事実に気付いた。こんなに確かなことなのに、何で今まで気付かなかったのだろうか。そういうことの繰り返しで、人間はその歴史を閉じるのかもしれない。ああもう何だか泣けてきたぞ。

と、昨夜遅くまで一緒に呑んだ仲間の一人、エイミーが興奮気味に話し掛けてきた。「クロサイはまだここにいたのね。感動的じゃない?」

あ、なるほど、と思った。クロサイはまだここにいる。私もまだここにいる。まだやれる事、あるよな。

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