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ギリシャ旅行記-2003-

デルフィに降る雪

朝5時、目覚ましが鳴る。基本的にお寝坊な3人娘たちは、当番制で目覚まし係を決めていた。そうでもしないと、いつまでたっても一日が始まらない。だいたいの場合、前日の夜のカードゲームの成績で次の日の目覚まし当番が決まった。昨夜は私がページワンでボロ負けし、今朝は私が目覚まし当番。デルフィーツアーの予定が入っているため、いつもより早く起きなきゃならない。そんな日に限って目覚まし当番。人生はギリシャのケーキのように甘くはない。

眠い目をこすりつつ朝食をとる。今朝ははじめて「蜂蜜かけヨーグルト」を食べてみた。ブルガリアヨーグルトより少し酸味が強くて固めのヨーグルトに、甘味を抑えたやわらかい蜂蜜をたっぷりかける。お腹に悪いんじゃないか思って今まで手が出せなかったが、食べてみるとこれがまた美味しい。これ実はギリシャでけっこう有名なデザートらしい。明日も食べよう。

旅も5日目に入り、レストランのウエイターやフロントのお姉さんたちとも、片言のギリシャ語で挨拶できるくらいにはなった。最初は威圧感を感じていたが、慣れるとみんな結構お茶目でいい人たちだった。今日も元気にご挨拶。デルフィーツアーのバスが来るまで、退屈そうな私たちの時間つぶしをしてくれた。

アテナの神殿 ツアーはあいにくの雨だった。やはりこの季節のギリシャはお天気が悪い。早起きのせいで眠い私はデルフィーまでの片道4時間の道のりをひたすら眠りこけた。
目が覚めるとデルフィーの町。そのままバスに乗り続けると、バスは町を抜け山へと登っていく。ツアー一行が『アポロン神殿』のあるデルフィー遺跡へ着いたころには、雨が雪に変わっていた。どうりで冷えるわけだ。

各国から集まったツアー参加者たちは雪だ雪だと珍しがって騒ぎ出すが、自分はもともと雪国産。「雪なんて迷惑、寒いだけ」と主張する。が、「デルフィーに降る雪だと思えば素敵でしょ」と諭される。なるほど、そう言われればそんな気もする。ギリシャで雪にあうなんて滅多にないのかも。少なくとも海沿いのアテネに居たんじゃこの雪は見られなかただろう。霧の向こうに『アテナの聖域』の遺跡が見えた。とても幻想的な光景だった。

アポロン神殿は柱が数本残るのみのシンプルな遺跡。デルフィのアポロン神殿あと残っているのは石の絨毯だけ。しかしこの遺跡はギリシャでも有名な観光地の一つだった。
このデルフィーの地は、その昔「大地のへそ」、つまり世界の中心と呼ばれ、たくさんの人々が聖なるご神託を受けにやってきた『聖地』だった。時には王様までもこの山道を登ってご神託を受けに来たという。
戦争や飢饉、疫病が人々を苦しめた時代、古代ギリシャ人たちはどんな悩みを抱えてこの山道を歩いてきたのか。我々も「せっかくギリシャに行くんだから、聖なるデルフィー遺跡を素通りしたら罰が当たる」ということで、このツアーに関しては日本を発つ前に予約済みだった。

アポロン神殿に残る柱信託を授かるこの遺跡の入口には『汝自身を知れ』という有名な言葉が刻まれていたという逸話がある。どういう意味合いでそんな言葉が書かれたのかはよく分かっていないらしいが、深いなぁと思わずにはいられない。アポロンの神託に頼らずとも、もっと自分自身を知れば自ずと答えは見つかるということか。それとも国を大きくする算段や金儲けのためのくだらない悩み事をする前に、「人間とはなんなのか」という哲学的な問いを立てろということか。やっぱり深いなぁ。

でも1人の人間だって考えてみれば深いもので、この神殿と張るくらい、いやそれ以上に神秘的な存在だと思う。「自分のことは自分がいちばんわかってる!」なんてよく言ったりするけど、私自身、友人や家族から指摘されて初めて気付かされることのほうが実は多かったりなんかして。なのにそれを「知れ」なんて、そんなこと簡単に言われても困っちゃうじゃないか。

デルフィのご神託関連の話としてひとつ有名な昔話がある。昔々、かの有名な哲学者ソクラテスはアテネで一番賢い男とされた。なんでも、ある人がデルフィのご神託に
「アテネでもっとも賢い人は誰ですか」
と聞いたところ、アポロンの巫女ピューティアは
「それはソクラテスである」
ソクラテス石像と答えたという。しかし、それを聞いてソクラテスはびっくり仰天。自分は何もわかっていないのに、一番賢いとはどういうことだ?!そしてソクラテスは賢者といわれる人たちを訪ね歩いた。彼らと知的な問答を繰り返すうちに、ソクラテスは例のご神託が正しいということに気付いた。

賢者たちは確かに物知りではあったが、わずかな知識だけで満足し、「自分は賢者である」と思い込んでいた。そしてもっと多くのことを知ろうとする者はいなかった。逆にソクラテスは「自分が物知りではない」ことを自覚していた。このことから、一番の賢いのはソクラテス自身であると納得したという。以上、倫理の授業かなんかで習った『無知の知』のおさらい。

行きはひたすら爆睡タイムだったが、復路は町で買い物したり、バスの車窓からギリシャの田舎の風景を眺めたり、「旅」を満喫できた。ギリシャの農村風景、特に絵になりそうな緑の牧場の景色は心を和ませてくれる。やっぱり田舎育ちの自分には田舎の旅があっているようだ。
決めた。今度はヨーロッパの田舎風景をのんびり見て回れる旅をしよう。

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